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ADAS部品向け材料・技術紹介 ~アクチュエータ部品・通信機器編~
ADAS部品向け材料・技術紹介 ~アクチュエータ部品・通信機器編~ |
1. はじめに |
自動車業界では100年に一度の大変革と言われるように、大きな変化を迎えており、CASE (Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric) が重要キーワードとなっています。内燃機構車から電気自動車へのシフトは、従来のエンジン・燃料系の部品が無くなり、電気・電子部品やバッテリー部品に置き換わります。一方、Autonomous (自動運転) の実現に向けて、ADAS (Advanced Driver-Assistance Systems; 先進運転支援システム) の部品が増加しています。 自動運転レベルはSAE (Society of Automotive Engineers) の定義に基づいており、レベル2 (部分的運転自動化) までがADAS、レベル3以上は自動運転とされています。すでに市場ではレベル2の機能を搭載した車種が販売されています。当たり前のことですが、自動車の運転は、運転者が「視認・判断・操作」をしています。ADASではこれらの動作の一部を各部品が代わりに行います。これらを大きく分類すると、視認:センサー、判断:ECU、操作:アクチュエータと言えます。またセンサーで視認できない部分をサポートする通信機器、各部品を接続する通信ネットワークも重要な役割を果たします。 |
表1:自動運転レベルの定義概要 |
出展:内閣府ホームページ |
SAEレベル | 概要 | 安全運転に係る 監視、対応主体 |
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運転者が全てあるいは 一部の運転タスクを実施 |
レベル0 運転自動化無し |
・運転者が全ての運転タスクを実施 |
運転者 | ||||
レベル1 運転支援 |
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運転者 | |||||
レベル2 部分運転自動化 |
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運転者 | |||||
自動運転システムが 全ての運転タスクを実施 |
レベル3 条件付運転自動化 |
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システム (作動継続が困難な場合は運転者) | ||||
レベル4 高度運転自動化 |
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システム | |||||
レベル5 完全運転自動化 |
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システム |
※ここでの「領域」は、必ずしも地理的な領域に限らず、環境、交通状況、速度、時間的な条件などを含む。 |
2. エンプラが使用されるADAS部品 |
ADAS部品は、周辺を監視するセンサー、動作するアクチュエータ、車-車間またはインフラとの通信機器、判断するECU (Electronic Control Unit) で構成されています。またADASの高度化に伴い、各部品の送受信するデータ量が増加するため、高速通信が必要となります。さらに今後5G通信が広がることもあり、高速伝送部品、高周波伝送部品が増加することが予想されています。図1にエンプラが適用されるADAS部品の一例を記載しました。これらの部品の中から、本稿ではアクチュエータ部品、通信機器向けのエンプラをご紹介します。 |
図1:エンプラ・スーパーエンプラが適用される自動運転関連部品 |
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3. アクチュエータ部品向けの材料 |
近年、自動車のアクチュエータ部品は電動化されてきており、By wire systemの採用が進んでいます。従来のBy wire systemはエンジンの吸気量を調整するスロットルだけでした。最近では変速機のシフト、パーキングブレーキ、ステアリングやブレーキにもBy wire systemが広がってきています。By wire systemは電気信号でアクチュエータをコントロールするため、絶縁素材 (樹脂) が必要になります。またADASが高度化していくと、部分的に制御が自動化されるため、関連製品には高い作動信頼性が要求されるようになります。そのため、電源・信号の回路を2系統にする等、冗長性を考慮した設計が進められています。このような変化に伴い、アクチュエータ部品は厳しい環境下に設置されても、故障しない高い信頼性が求められるようになっています。これらの部品に使用される樹脂も同様に、高い信頼性 (長寿命) が求められます。弊社製品のジュラネックス® PBTは、自動車の厳しい環境下でも性能を維持するため、多くの電動アクチュエータ部品へご採用頂いています。以下に採用事例のある弊社製品の一例をご紹介します。 |
被水環境下でも優れた耐久性を有するジュラネックス® PBTグレード |
車両下部に設置される部品は、路面と部品の距離が近く、路面上の水や融雪剤、油などに曝されます。またエンジンやモータ等の熱を発する部品の近くでもあるため、高温にもなります。これらの環境から、多くのアクチュエータ部品には耐熱性が高く、耐薬品性に優れ、吸水による特性変化が少ないPBTが選定されています。 ジュラネックス 330HR、531HS、532ARはこのような環境下でも耐える優れた耐久性 (耐加水分解特性) を有した材料です。図2にヒートショック破壊のメカニズムを示しました。531HS、532ARは耐ヒートショック性を有しており、冗長設計によるインサート金属の増加にも対応可能なグレードです (表2) 。 車両下部の環境下では高温で水・融雪剤に触れるため、金属部品に錆が生じやすい環境です。鉄は腐食して錆びるだけでなく、錆びが発生する際に生じるアルカリ物質が発生します。このアルカリ物質が樹脂部品と接触し、樹脂にひび割れ (ストレスクラッキング) を発生させることがあります。このストレスクラッキング発生を防止するためには、①耐アルカリ性を有する樹脂を用いる、②金属に腐食防止対策を施す、どちらかの対策が必要です。532ARはアルカリ物質に対しての耐性を有しており (図3,4) 、金属の錆汁が樹脂部に接触してもストレスクラッキングが発生しにくいグレードであるため、車両下部に設置される部品への適用に最適です。 |
表2:ジュラネックス® PBTのグレード特性 |
グレード名 |
特長 |
機械特性・ 耐熱性 |
耐加水分解性 |
耐ヒートショック性 |
耐アルカリ性 |
532AR |
GF30% 耐アルカリ |
● |
● |
● |
● |
531HS |
GF30% 耐ヒートショック |
● |
● |
● |
|
330HR |
GF30% 耐加水分解 |
● |
● |
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3300 |
GF30% 標準 |
● |
図2:ヒートショック破壊のメカニズム |
図3:ジュラネックス® PBT 耐ヒートショック性(-40℃⇔140℃/サイクル) |
<試験方法> ・穴付の80□×1mmt試験片からウエルド部を短冊状に切削 ・短冊状試験片に1%のひずみを負荷し、強アルカリ性の10%水酸化ナトリウム溶液に 常温で浸漬 ・ひずみが負荷された状態の短冊試験片にクラック発生する時間を測定 |
図4:ジュラネックス® PBT 耐アルカリストレスクラックッキングの評価結果 |
4. 通信機器向けの材料 |
車両の電動化に伴い、樹脂に難燃性が求められるケースが年々増えてきています。高電圧がかかるモータ、電池、充電部品に用いられる樹脂には難燃性を有する樹脂が多く用いられています。それ以外にも近年はV2X (Vehicle to everything) で用いられるデータ通信機器にも難燃性を有する樹脂が用いられています。このV2Xは自動運転 (SAE レベル3以上) の実用化に必要な機能であり、今後搭載される車種が増えていくと予想されています。このデータ通信機器のケースやコネクタにエンプラが使用されています。これらのエンプラには難燃性以外にも、車載環境下における高い耐久性、高い寸法精度が要求されます。 当社製品のジュラネックスは難燃材料としての認定 (UL規格でV-0) を取得しているグレードを有しており、多くの車載部品に採用されています。特にジュラネックス 750AMは車載環境下における高い耐久性を有しています。さらにケースやコネクタの形状を安定させる機能も付与されており、近年の難燃化が要求される自動車部品への採用が増えてきています。 |
難燃性を有した寸法安定性に優れたジュラネックス® PBT 750AM |
自動車で要求される環境温度-40℃~140℃の範囲で一定の機械特性・耐薬品性を持つ材料として、PA66やPBTが様々なケースやコネクタに多く使用されています。両材料にはそれぞれ特徴がありますが、供給の安定性の観点から、昨今ではPBTの採用例が増えて来ています。 自動車の難燃性要求部品への採用例として、750AMを紹介します (図5,6) 。このグレードには自動車のエンジンルーム内で多くの実績のある733LDと同等以上の低そり性、耐久性 (耐加水分解性) に加え、難燃性を付与しています。自動車分野で求められる十分な耐久性および高い形状安定性を有しており、EV、HEV部品、通信機器等に好適な材料です。 |
図5:ジュラネックス® PBT 750AMのそり変形 (箱型成形品の内そり変形を評価) |
図6:ジュラネックス® PBT 750AMの耐加水分解特性 (プレッシャークッカー試験による引張強さの保持率を評価) |
5. 最後に |
今回はADASのアクチュエータ部品・通信機器向け材料中心に記述しましたが、ADASのセンサー部品向けの材料トレンドも別の機会にご紹介致します。今後も当社はエンジニアリングプラスチックの専業メーカーとして、市場ニーズに適した材料開発を進めていきます。 |
【関連資料】 |
・自動車の電動化に伴う材料開発の取り組み ~PCU向け材料を中心に~ ・PBT新グレード:耐アルカリストレスクラッキング特性を実現 ジュラネックス® 532AR |
物性表はこちら: |
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2020/7/13 |