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ブリスター特性に優れた「ラペロス® LCP」の開発
ブリスター特性に優れた「ラペロス® LCP」の開発 |
はじめに |
液晶ポリマー(LCP)は、溶融時に液晶性を示す熱可塑性の芳香族ポリエステルの総称です。 LCPは剛直で折れ曲がりにくい分子構造を持ち、高分子物質に特有な分子の絡み合いが非常に少ないポリマーです。 剛直な分子骨格を有するため、わずかなせん断力により分子が流動方向に配向することとなり、射出成形時の流動抵抗が小さく高流動性を示します。また、溶融時の構造がそのまま固化した際にも維持されることから、分子の再配列による体積変化が小さく、高寸法精度を誇ります。さらに、成形時のガス発生が少なく金型のメンテナンス頻度を低減できること、固化速度が速くハイサイクル成形に適すことなども大きな特長として挙げられます。 LCPは、高流動性、高寸法精度に加え、高耐熱性を示し、小型化、表面実装(SMT)化が進むスマートフォン等のコネクター市場において幅広く使用されています。また、近年では自動車分野、家電・OA分野においても、高寸法精度、高耐熱要求からLCPの検討、採用が拡大しています。 当社では、「ラペロス® LCP」の性能・品質向上に努める一方で、その性能を最大限活かすための成形加工法の研究も進めて参りました。本稿ではブリスターに関する最新の知見について紹介させていただきます。 |
1.LCPにおけるブリスター現象とその原因 |
LCPを使用する際に市場で多く見られる不具合として、ブリスターがあげられます。ブリスターとは、図1に示しましたように、加熱により成形品表面に膨れが発生する現象です。 |
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図1:成形品表面に発生したブリスター(左)とその断面図(右) |
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LCPは表面実装される電子部品に多く使用されるため、加熱リフロー後に製品表面が膨れるブリスターは、大きな問題となります。ブリスターの原因としては、図2に示したように、LCPの分解ガス、成形中の巻き込みガス、スキン/コア層の層間剥離等様々であり、原因に応じた対策をとる必要があります。 |
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図2:LCPにおける一般的なブリスター原因の分類 |
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材料面では、より熱安定性が高く、発生ガスの少ない材料を使用することが重要です。ラペロスは、お客様の要望に答えられるよう、超高耐熱グレードを含めた幅広いグレードをラインアップしています。さらに、ブリスターには成形条件や金型などの形状設計が大きな影響を与えます。図3にはノズルとスプルーの組み合わせを示します。この中で、ノズルとスプルーの直径差が大きく、射出速度が速いとき、図3の右の写真のようなとぐろ状のジェッティングが発生することが分かっています。ジェッティングはLCP成形品において層構造を不安定化させ、ブリスター特性を悪化させます。 表1には各スプルー径におけるブリスター発生頻度の射出速度依存性を示します。φ3mmの細いスプルーでは300mm/sという高速射出条件でもブリスターが発生しないのに対し、φ7mmでは100mm/sでブリスターが発生することが分かります。このように、スプルー径の最適化によって、より幅広い条件で選択ができ、安定した成形が可能となります。 |
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図3:LCP成形におけるスプルー設計例 |
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表1:各スプルー径におけるブリスター発生率の射出速度依存性 |
材料 | スプルー径 |
射出速度(mm/s) |
|||||
50 |
100 |
150 |
200 |
250 |
300 |
||
ラペロス® E471i | φ3 | 0 | 0 | 0 |
0 | 0 | 0 |
φ5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 80 | ||
φ7 | 0 | 100 |
|
ノズル径:φ1.5mm | 単位:% |
2.肉厚変化に伴うブリスター発生とその評価方法 |
上述したように、当社では市場でのブリスター問題解決に向け、高耐熱グレードの開発やノズルとスプルーの最適化に関する検討を行ってきました。しかしながら、現在も市場でのブリスタートラブルは完全に解消されたとはいえません。 図4にLCPの代表的な採用アイテムであるDDRコネクターを示します。多くのコネクターでは、製品重量の削減を目的に肉抜き(製品の厚みを減らす)が施されます。このような偏肉成形品では、厚肉部分でブリスターが発生しやすいことが分かっており、その傾向は形状、成形条件、材料によって大きく異なります。今回、当社では成形品内での肉厚変化に着目し、図5に示すような金型を作製、評価を行いました。この金型では、薄肉部分から厚肉部分の肉厚変化(段差)を任意に変化させることが可能であり、その際の成形条件依存性、材料による傾向の違いが評価可能です。 |
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図4:DDRコネクター | 図5:当社評価用成形品 |
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当社金型を用いた成形品におけるリフロー後のブリスター評価結果を表2に示します。ラペロス E463i、E473iいずれのグレードでも射出速度と段差が大きくなるのに伴い、ブリスターが発生しやすい傾向にあります。しかしながら、これら2つのグレードではブリスターの発生しやすさで大きな差がみられ、E463iが段差0.4mm、射出速度300mm/sでもブリスターが発生しないのに対し、E473iでは段差0.3mm、射出速度200mm/sという比較的低い段差、低い射出速度でブリスターが発生し始めます。このように同じ形状、成形条件であってもブリスター発生傾向は大きく異なるため、グレード選定の際はその特徴を理解しておく必要があります。 |
表2:各段差、射出速度におけるリフロー後のブリスター発生率 |
ラペロス® LCP E463i | ラペロス® LCP E473i | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|
単位:% | 単位:% |
図6に、段差部分の充てん挙動を示します。ブリスターが発生しづらい材料では、段差による流動拡張部分でも樹脂はキャビティに沿って充てんがなされており、形状変化に対する応答性が高いといえます。一方で、ブリスターが発生しやすい材料を見ると、流動拡張部分での樹脂の広がりは不十分であり直線的に樹脂が流れていることが分かります。樹脂が直線的に流れた場合、段差部分の充てんは遅れ、他のキャビティに一定量の樹脂が流れた後に埋められます。図7に示すように、ブリスターが発生しやすい材料では、充てん末期であっても段差部分に一部空隙を持ちます。この空隙は、最終的に樹脂が完全充てんされた際に不安定な界面を形成すると考えられ、不安定な界面は熱処理により容易に剥離、ブリスターとなります。 |
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図6:段差部分の充てん挙動 |
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図7:ブリスターが発生しやすい材料での段差部分の充てん(充てん末期) |
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3.ブリスターを抑制するラペロス® LCP開発材料 |
段差における不安定界面の形成を決定する拡張流動の大きさには、材料のスウェル特性が大きな影響を与えます。スウェル特性は、ポリマー種、フィラー種により大きく異なることが分かっており、グレード選定の際には考慮すべき点です。当社では、この知見をもとに急激な肉厚変化部で発生するブリスターを抑制するグレードの開発を行いました。表3にはブリスター特性に優れた2種類の開発材料の特性を示します。いずれも従来の材料に比べ大幅なブリスター抑制効果が確認されており、生産性の向上が期待できます。今後はこれら開発材料のサンプリングを進め、ブリスター不具合の一層の低減に向け取り組んで参ります。 |
表3:ブリスター特性に優れたラペロス® LCPの特性 |
項目 |
試験方法 |
単位 |
開発材料1 |
開発材料2 |
E463i |
E473i |
低そり 高強度 低ブリスター |
低そり 高流動 低ブリスター |
低そり 低異方性 |
低そり 高流動 |
|||
溶融粘度 | ISO 11443 | Pa・s | 41 | 34 | 40 | 25 |
曲げ強さ | ISO 178 | MPa | 160 | 140 | 130 | 160 |
曲げ弾性率 | ISO 178 | MPa | 12,100 | 11,000 | 10,600 | 11,000 |
曲げ破断ひずみ | ISO 178 | % | 3.1 | 3.5 | 3.1 | 2.8 |
DTUL (1.82MPa) | ISO 75-1,2 | ℃ | 246 | 243 | 235 | 250 |
ブリスター発生率 | 当社法 | % | 2 | <1 | 9 | 54 |
おわりに |
これまで述べてきたように、「ラペロス® LCP」の特長を最大限活かすためには、使用するグレード、成形加工双方で的確な選択をする必要があります。本稿では段差におけるブリスター発生に関する当社知見を紹介しましたが、ブリスター不具合については原因が多岐にわたり、現象を正確に把握することが最も重要です。 当社は、より成形しやすい高品質な樹脂材料を提供するとともに、成形加工に関する適切なアドバイス・サポートを行って参ります。 |
【関連資料】 |
物性表はこちら: |
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2019/11/26 |