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自動車の燃料系部品におけるジュラコン(R)POMの市場展開と新規グレードの提案


自動車の燃料系部品における
ジュラコン® POMの市場展開と新規グレードの提案



1. はじめに

ポリアセタール樹脂(以下POM樹脂と略す、当社商品名「ジュラコン®」)は優れた機械特性、耐熱性、耐燃料性、および良好な成形加工性により、自動車の燃料系部品として数多く使用されています。燃料系部品とは、燃料タンクに接続されて稼働する部品の総称です。具体的な部品名称、使用樹脂材料例、最重要特性を表1に示します。本稿では、燃料系部品にジュラコン® POMが選択される理由、および具体的な採用部品を紹介した後に、最新の燃料系部品をターゲットとしたグレードを紹介します。


表1:燃料系部品一覧

部品名称 主な樹脂材料 最重要特性
 燃料タンク  EVOH, HDPE, PA  衝撃性
 気体バリヤ性
 燃料チューブ  PA, フッ素系樹脂  衝撃性
 気体バリヤ性
 導電性
 フューエルセンダーモジュール  POM  長期耐久性
 寸法安定性
 モジュール固定用ナット  POM  長期耐久性
 キャップ  POM, PA  衝撃性
 導電性
 フィラーネック  PE, PA  衝撃性
 気体バリヤ性
 導電性
 バルブ類  PA, POM, PBT  気体バリヤ性
 溶着性


図1-1:燃料系部品(自動車全体)

図1-2:燃料系部品(フューエルセンダーモジュール)


2. 自動車の燃料系部品にジュラコン® POMが選択される理由
(1) 初期の機械物性

ジュラコンの標準タイプ(MFR※1:9程度)M90-44が、燃料系部品には多く利用されています。これは基本的な初期特性である引張強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度などが、構造部材として必要な機械物性や耐熱性を満たしているためです。

図2-1はM90-44の室温での引張強度試験におけるSSカーブ(応力-歪み曲線)です。降伏歪み※2 は約8%であり、ばね弾性に優れているため締結時に一時的に数%の変形を伴うスナップフィットに適しており、組み立ての簡略化につながります。

また、欧州や米州の一部では、高流動タイプ(MFR※1:14程度)のグレードも広く利用されています。これは、成形性の良さを考慮したためで、当社ではそれに対応したグレード(H140-54C、詳細は後半で触れます)も展開しています。


図2-1:引張強度試験におけるSSカーブ(応力-歪み曲線)

※1 MFRは、プラスチック材料の溶融流動性の目安となる値
※2 降伏ひずみは、引張強さの最大応力値付近におけるひずみ

参考)スナップフィット設計
https://www.polyplastics.com/jp/support/othe/snapfit_design/index.html


(2) 耐燃料性

初期の機械物性とともに重要な、二成分混合燃料(模擬燃料:FuelC+メタノール15%)浸漬後の機械物性について、図2-2、図2-3に示します。 図2-2のように、5000時間浸漬後の引張強度保持率はいずれの燃料浸漬後においても80%以上あり、また300時間よりも長時間側では一定値となっていることが分かります。これは、図2-3に示す通り燃料膨潤量が300時間程度で飽和状態となっているためであり、飽和膨潤以降はそれ以上の物性低下が起こらないことを示しています。また、一般的にPOMは燃料透過性についても実用的なレベル(約30g/m2・24hr・atm、@60℃・1mmt)を保持していることが知られています。これらのことからジュラコンは長期間の燃料浸漬における十分な耐性を保有しているといえます。

その他の二成分混合燃料(例えば、レギュラーガソリン/メタノールなどの任意混合比率の燃料)系における飽和膨潤量、および力学的な寿命予測については、リンクにある「燃料系部品における寿命予測技術」をご確認ください。


図2-2:燃料浸漬後の引張強さ保持率

図2-3:燃料浸漬後の重量変化率

(3) 溶着性

M90-44に代表されるジュラコンは熱板溶着、超音波溶着、レーザー溶着といった各種溶着が可能であり、POM各部品を溶着し、モジュール化することに適していることも採用理由の一つです。

 

その他、射出成形性に優れる(比較的成形サイクルが短い、離型性がよいなど)ことや寸法安定性に優れていることが、高い信頼性が求められる自動車の燃料系部品に長きに渡ってジュラコンが採用され続けている要因と考えられます。



3. ジュラコン® POMが推奨される自動車の燃料系部品
(1) モジュール固定用ナット

フューエルポンプモジュールをタンクに固定する樹脂製のナットです。同目的のために金属製のロック機構が採用されることもありますが、ジュラコンでは耐クリープ性(クリープ破壊寿命が長い、クリープ変形が小さい)に優れた高粘度タイプのグレードが推奨されます。


(2) フューエルセンダーモジュール

燃料タンクから燃料をエンジンへ供給する機能を統合した部品であり、一般的にはフューエルポンプ、フューエルセンダ、フューエルフィルタ、プレッシャレギュレータといった各部品をモジュール化(機能を統合した一体化)しています。多くの部品にジュラコンおよびジュラファイド® PPSが採用されています。


(3) キャップ

 

給油口のキャップです。構成部品には安定した滑り性のためにジュラコン摺動グレードや繰り返しの締め付け力保持のためにバランスの取れた機械物性、長期特性を示すM90-44, またはM25-44が推奨されます。

最近ではフューエルリッドを開けて、ノズルを差し込むと給油が出来るキャップレスシステムの採用が始まっており、従来のキャップシステムと同様にジュラコンの各種グレードが推奨され、特に高剛性などを要求される部品にはジュラファイドの各種グレードが推奨されます。


(4) バルブ類

燃料タンクにはORVR(Onboard Refueling Vapor Recovery)バルブ、カットオフバルブなどのバルブ類が装着されています。ORVRバルブは給油時に燃料蒸発ガスが給油口から大気中へ放出されるのを防止します。カットオフバルブは車両が横転した時に燃料タンクから燃料がタンク外に流出するのを防止します。両部品ともに良好な機械物性を保有し、組付け性(スナップフィット性、溶着性)にも優れたジュラコン標準グレード(M90-44)が推奨されます。

こちらで挙げたような燃料系部品の最近のトレンドとして、コントローラ一体型フューエルポンプモジュールやフューエルポンプのブラシレス化などがあります。いずれも省電力化に繋がる技術であり、当社も本目的に貢献すべく材料提案および技術開発を進めています。



4. 最新グレードの紹介

次に最新材料を紹介します。(表2)

いずれも成形しやすさに重点をおいた高流動性グレードであり、設計自由度向上のため高剛性を有しています。また、目的に応じ各グレードに異なる機能を付与しています。


(1) 高流動・高剛性グレード H140-54C

欧州では成形条件(シリンダー条件、射出圧力)の幅が広い高流動タイプ(MFR14相当)のPOMが標準的に使用されています。本グレードは高流動、および高剛性を付与したグレードです。高剛性化により製品肉厚の薄肉化を狙い、薄肉化によって起こる射出成形時のピーク圧の上昇を高流動化することによって抑制しています。本グレードを活用することで、部品の小型化、薄肉化が図れます。


(2) 導電グレード(開発材料)

燃料廻りの部品には静電気対策として導電性を付与した材料が使用されます。一般的に樹脂に導電性を付与すると、他の特性に影響が出ることが多く流動性や靱性が低下します。しかし、本グレードは、POM樹脂の持つメリットを維持したまま導電性の付与を実現しました。


(3) 耐酸性グレード(開発中)

高流動、高剛性、さらに耐酸性を付与した材料を開発中です。POMには、図3-1に示す酸分解反応により強酸に弱いという特性があります。燃料部品の中で燃料タンクの外に取り付けられるORVRバルブ、カットオフバルブ、フューエルポンプモジュールのフランジ部といった部品が、自動車洗浄剤、酸性雨などに由来する酸性成分によって破損されることがあります。本グレードはPOMの弱点である耐酸性を大幅に改善することを目的に開発が進んでいます。参考までに当社による耐酸試験方法をご紹介いたします。

 

耐酸試験の評価方法(図3-2)

(1)ISO引張試験片(4mmt)に一定歪みを負荷する

(2)酸を試験片全体に塗布する

(3)24時間後に試験片表面を確認し、クラックが発生していなければ1サイクル

       クリア(図3-3)

(4)(2)→(3)の操作を繰り返し、クラックが発生するサイクルを計測する



図3-1:POM酸分解反応

図3-2:耐酸性評価方法

図3-3:耐酸性評価後の表面状態(左:破断品、右:未破断品)

表2:最新グレードの物性表

  高強度 導電性 標準
H140-54C 開発材料 M90-44
MFR g/10min 14 11 9
引張強さ MPa 72 69 62
引張破断呼び歪み % 34 11 35
引張弾性率 MPa 3,050 8,000 2,700
シャルピー衝撃強度 kJ/m2 6 4 6
DTUL 101 - 95
体積抵抗率 Ω・cm - 1×103 1×1014


5. 最後に

自動車動力の化石燃料からの脱却が求められる一方で、燃料効率の向上により、今後も既存動力システムは一定割合が維持されるといわれています。当社では、燃料系部品につきましても今後もその小型化や軽量化、あるいは機能向上のための新材料の開発および新技術の発信を続けていきます。





 物性表はこちら:

 ◆M90-44 ◆H140-54C

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2019/06/25