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ADAS部品向け材料・技術紹介 ~センサー編~
ADAS部品向け材料・技術紹介 ~センサー編~ |
1. はじめに |
前報では、Autonomous(自動運転)の実現に向けて、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems; 先進運転支援システム)の部品が増加しており、運転操作を担う電動アクチュエータとBy wire system化に必要とれる樹脂特性について、当社製品のジュラネックス® PBTを中心に紹介しました。 今回は、センサー編ということで、図1のレーダーとカメラブラケットに注目してその部品の特徴や材料要求、技術動向について紹介していきます。 |
図1:エンプラ・スーパーエンプラが適用される自動運転関連部品 |
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2. レーダー部品向けの材料紹介 |
2-1 電波透過性を求められる材料 |
レーダーとは、対象物に照射されて戻ってきた電波を検出し、対象物までの距離や方向を検出する装置です。自動車には比較的長い距離を検出するLong Range Radar(以降LRRと表記、前方、77GHzミリ波)と短い距離を検出するShort Range RADAR(以降SRRと表記、後方、24GHz準ミリ波)として搭載されています。その機能として、LRRは前方の走行車両等を監視しています。一方でSRRは、ドライバーの死角になりやすい後方走行車両や、後退時に左右後方から接近してくる車両の存在を知らせるなどのシステムに使用されています。 レーダーは、アンテナ基板とそれを包む筐体からできています。その筐体は、内蔵物を保護するカバーやケースとしての役割と共に、電波を通すレンズのような役割を担っています。このため、レドームとしばしば呼ばれています。従って、レドームに使用される樹脂には、使用周波数帯での電波透過率が重要なパラメータです。この観点から低誘電率かつ電波透過率が安定した材料が求められます。更に、一般的に吸水によって電波特性は変わってしまうため、吸水率も重要なパラメータのひとつと言えます。 これまで市場では、誘電特性の観点からSPS、PEI、低吸水・耐薬品性の観点からPPSが使われてきました。現在はレーダーの汎用化に伴い、多くのメーカーがPBTと製造工法の組合せにより低コスト化を試みており、様々なモデルを製造しています。 |
図2:レーダー筐体の要求特性 |
2-2 電波透過性の吸湿による変化 |
前段で、誘電体を用いたレーダーの評価では、その誘電体の特性による電波の透過性が重要と述べましたが。図3に電波透過性の評価方法で知られている自由空間法(Sパラメータ法)の一般的な知見について示しました。次に、図4では、吸湿処理前後の電波透過性S21の変化を示しました。 図4において、実線で示された吸湿処理前の状態から、点線で示された吸湿処理後に電波透過性S21が下がる、つまり電波透過性が悪化していることを示しています。更に、ジュラファイド® PPS 1140A6では、吸水の影響が小さく、ジュラネックス 330HRについては比較的大きいと理解できます。従って、今後はPBTにおいても、より低誘電特性、低吸水性が求められると予想されます。当社においてもPBT開発材の検討を引き続き行って参ります。 |
● 電磁波しゃへいについて(一般的な知見) |
Feldtkellerの公式 |S11|2+|S21|2=1から拡張 |
図3:Sパラメータ法の解説 |
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図4:吸水前後の電波透過性比較 |
2-3 導電グレードの電磁波しゃへい性について |
レーダーは、取り付けた箇所からバンパー内面で反射する電波が路面等へ漏れる事によって意図しない電波を誤検知してしまう事があります。それを防ぐためには不要な反射波をしゃへいする必要があり、市場では電磁波しゃへいカバーを取り付けて対策しているケースが見られます。このため、レーダーブラケットそのものへ電磁波しゃへい性を持たせることで電磁波しゃへいカバーとレーダーブラケットの機能を一体化させる事が可能であると考えられます。 一般的には電磁波しゃへい性のメカニズムは、反射損失と吸収損失と多重反射損失の3つです。ただし、多重反射損失は小さいため本章では無視します。まず反射損失についてですが、反射損失は導電体を用いることで発現させることが可能です。ここでは当社の導電グレード ジュラコン® POM CH-10、EB-10とジュラネックス 7300Eの電磁波しゃへい性を紹介します。 電磁波しゃへい性の測定手法は、前述の自由空間法(Sパラメータ法)が用いられています。図5に、77GHzにおける各グレードの電波透過性S21、電波反射性S11について比較しました。ここで、注意して頂きたいのは、S21が負の値であり、導電グレードであるジュラコン CH-10は電波透過性S21(dB)が非常に小さいということです。前章2-2ではS21の値が0に近づくほど透過性が大きいということを示しましたが、導電性グレードでは、S21のマイナス幅が大きい=電波透過性が低い=電磁波しゃへい性に優れているということを示しています。次に図6では、図3のFeldtkellerの公式(|S11|2+|S21|2=1)に基づいて、電磁波のエネルギーの損失割合を示しました。入射時を1として、反射損失(図6右)と吸収損失(図6左)の割合を示しています。図5と組み合わせて見ますと、ジュラコン EB-10やジュラネックス 7300Eについては、その電磁波しゃへい性はCH-10に劣りますが、しゃへい性の内訳として吸収損失の比率(図6左)は上昇していることが分かり、材料によって電磁波しゃへい性の特徴に違いが有ることを理解出来ます。 |
図5:自由空間法(Sパラメータ法)を用いた77GHzにおける電波透過性の比較 |
図6:自由空間法(Sパラメータ法)を用いた77GHzにおける |
以上のことから、これらの材料をレーダーブラケットに用いる事で、誤検知防止に貢献できると考えられます。当社においても、より電磁波しゃへい性を高めたPBT開発材の検討を引き続き行って参ります。 |
3. 車載センシングカメラブラケットにおける艶消し技術の紹介 |
3-1 車載前方センシングカメラ向け材料の紹介 |
車載前方センシングカメラは、ブラケットを介してルームミラー裏のフロントガラスに接着されています。ブラケットはカメラを常時固定する役割を担っていることから、一般的に低反り、高剛性な材料が好まれます。当社の低反り性を有する材料として、ジュラネックス 733LD及び7407を紹介いたします。 図7はジュラネックス 733LD及び7407の平板による反り変形性を比較しました。一般ガラス繊維強化グレードのジュラネックス 3300と比較して、両グレードの反り変形が改良されている点が分かります。一方で表1に示した通り、剛性の指標として曲げ弾性率を参照すると、両グレードの剛性が維持されている点が分かります。 |
図7:ジュラネックス® PBT 733LD及び7407の低反り性比較 |
表1:ジュラネックス® PBTの機械物性 |
項目 | 単位 | 試験方法 | 3300 | 733LD | 7407 |
標準 | 低そり 耐加水分解 |
超低そり | |||
一般特性 | PBT-GF30 | PBT+SAN-GF30 | PBT+PC-(GF+GS)40 | ||
密度 | g/cm3 | ISO 1183 | 1.53 | 1.46 | 1.57 |
吸水率 (23℃、浸漬24hr、1mmt) |
% | ISO 62 | 0.1 | 0.2 | 0.1 |
引張強さ | MPa | ISO 527-1,2 |
140 | 139 | 117 |
引張破壊ひずみ | % | ISO 527-1,2 | 2.2 | 2 | 2.5 |
曲げ強さ | MPa | ISO 178 | 220 | 180 | 180 |
曲げ弾性率 | MPa | ISO 178 | 9,030 |
9,000 | 9,500 |
シャルピー衝撃強さ (ノッチ付き、23℃) |
kJ/m2 | ISO 179/1eA | 10.5 | 7.6 | 8.8 |
荷重たわみ温度(1.8MPa) | ℃ | ISO 75-1,2 | 213 | 195 | 200 |
3-2 車載前方センシングカメラブラケットへ工法の紹介 |
車載前方センシングカメラブラケットは、光学エリアへノイズ(散乱光)が入らないことが求められています。この対策として、カメラレンズ前方のフード部へ、塗装や不織布を施工する事で光沢度を下げるのが一般的です。しかしながら、これらの工法はプロセスの煩雑さやコストに課題があると言えます。一方で、シボ処理によって艶消しにする事も可能ですが、品質保証の観点で課題があると考えられます。以上のことから、ここでは、これら代替工法として、レーザー処理による艶消しの技術を紹介します。当社では、市場流通品の光沢度(0.5~1.5)、漆黒度(L値20~32)を鑑みて、レーザー処理条件を検討致しました。写真1に作製したサンプル外観(ジュラネックス 3300)を示し、写真2にはレーザー処理イメージを示しました。更に作製されたサンプルの光沢度および漆黒度(L値)を表2に示しました。検討の結果、レーザー処理条件CやDでは良好な光沢度、漆黒度を見出すことが出来ています。今後は長期的な耐久性の調査、処理時間短縮のための条件探索を実施していく予定です。 |
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写真1:レーザー処理された平板 |
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写真2:レーザー照射イメージ(格子状) |
4. おわりに |
今回はADASのセンサー部品向けの中で、レドームとレーダーブラケットについて材料トレンドをご紹介致しました。また、表面光沢度の工法として、レーザー処理をご紹介いたしました。今後も我々はエンジニアリングプラスチックの専業メーカーとして、市場ニーズに適した材料開発及び工法開発を進めていきます。 |
【関連資料】 |
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<参考文献> 総務省電波利用ホームページ 周波数割当計画 |
2021/1/12 |