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低燃料膨潤PPS ジュラファイド(R) 6165A7S


「ジュラファイド® PPS 6165A7S」は、従来材料の機械物性を維持しながら、特に燃料による膨潤を抑制した材料です。燃料・オイル廻りの自動車部品、冷媒・オイル廻りの家電部品、給湯器・ポンプなどの水廻り部品にお奨めしています。

1. はじめに
PPS(ポリフェニレンサルファイド)はベンゼン環と硫黄が交互に繰り返される構造をもっており、極めて優れた耐熱性、難燃性、機械特性、寸法安定性、耐薬品性を示します。融点は 280~290℃、連続使用温度は 200~240℃です。中でも 200℃以下で PPS を溶解する有機溶媒はなく、フッ素樹脂に匹敵する耐薬品性を持っているのが大きな特徴です。
よく知られているように PPS には架橋型、半架橋型、直鎖型がありますが、直鎖状 PPS(弊社商標「ジュラファイド」)は架橋型 PPS に比べて、靭性及びウエルド強度に優れている反面、直鎖状 PPS はバリが多いという欠点がありましたが、この欠点もコンパウンド技術により改良されています。
直鎖型 PPS は靭性が格段に向上したことから、架橋型 PPS では不可能であったフィルム、繊維などへも応用が広がり、このうち、PPS 繊維はマルチフィラメント、モノフィラメント、不織布などへ加工され、各種フィルタ、コンベアベルトなどへ応用されています。
また PPS は、有機及び無機フィラーに対する安定性、相溶性に優れていることから、種々のフィラーを比較的多く添加することが可能です。このため、無充てん材料に加えて、フィラーの添加による新規機能の付与を目的としたグレード開発を積極的に進めています。


2. 低燃料膨潤グレード開発の背景

PPSは耐薬品性、耐加水分解性に優れているため、燃料、オイルまわりの自動車部品、冷媒、オイルまわりの家電部品、給湯器、ポンプや水道まわりの部品に使用されています。特に燃料、オイルまわりの自動車部品では高充填系グレードのジュラファイド6165A6等が採用されていますが、耐燃料膨潤特性に対する要求は一段と高まっています。このようなニーズに応えるため、耐燃料性を著しく高めた低燃料膨潤PPSとしてジュラファイド 6165A7Sを開発・上市しましたのでご紹介します。ジュラファイド 6165A7Sは、従来材料の機械物性を維持しながら燃料による膨潤を著しく抑制した材料で、市場での採用も進んでおり、今後の更なる拡販が期待されています。



3.燃料膨潤メカニズム
3-1.なぜ膨潤が問題になる?

PPSは耐薬品性に非常に優れた樹脂です。200℃以下でPPSを溶解する有機溶剤はなく、フッ素樹脂に匹敵する耐薬品性を示します。また、燃料透過性についても最も低い樹脂の一つであることから(図1)、燃料ポンプ用部品等の燃料に接する部品にも多く使用されます。しかしながら、部品性能の高度化に伴い、燃料が樹脂中へ極微量浸透する時に生じる微小な寸法変化(膨潤)が課題となってきました。


図1:燃料透過性の樹脂間比較(CE-10、60℃、成形品厚み:1mm)

※評価方法 : 差圧法 (溶液がサンプルと接触) ※試験環境 : 絶乾状態(無加湿下)


3-2.燃料はPPSのどこに入る?

PPSは結晶性樹脂の一種であり結晶部と非晶部を有していますが、弊社のこれまでの検討から燃料成分は非晶部のみに進入し、結晶部には浸透しないことがわかっています(図2)。 図3に試験片における燃料浸漬前後の広角X線チャートを示しますが、ピーク位置が全く変化していないことがわかります。燃料成分が結晶部に入るには結晶構造を崩すだけの大きなエネルギーが必要であり、燃料は非晶部に選択的に浸透すると考えられます。


図2:ポリマー構造と燃料浸透の模式図

図3:ジュラファイド® 6165A6 試験片の
広角X 線チャート

 
(M15 レギュラーガソリン、60℃)

3-3.結晶化度と燃料膨潤特性  
上述の通り、燃料はPPS中の非晶部に入り込み、結晶部には進入しません。従って、結晶化度が高く、非晶部の占める割合が少ないほど耐燃料膨潤に有利な材料といえます。
図4に低温金型(50℃)で成形して得られた非晶性PPSと高温金型(150℃)で十分結晶化させた結晶性PPSの燃料膨潤特性(重量変化)を示します。非晶性PPSは結晶性PPSと比較して膨潤速度が著しく速いことがわかります。
PPSは分子構造により直鎖型と架橋型に大別され、ジュラファイドPPSは靭性に優れた直鎖型ポリマーをベースポリマーとして採用しています。通常、直鎖型ポリマーは架橋型ポリマーと比較して結晶化度が高い傾向があります。従って、結晶化度が高く非晶部の割合が少ない直鎖型ポリマーが低燃料膨潤PPSにより適していると考えられます。
図4:結晶・非晶ポリマーの燃料膨潤挙動比較
(無充填PPS、厚み0.8mm 試験片、Fuel C、80℃)

 ※非晶 : 金型温度50℃で成形
 ※結晶 : 金型温度150 で成形
 ※Fuel C:トルエン:イソオクタン=1:1


3-4.非晶部の分子運動性と燃料膨潤特性

燃料成分はPPS樹脂の非晶部に浸透すると述べてきましたが、この際、燃料はポリマーの分子運動の作用を受けて樹脂表層から樹脂内部へ浸透・拡散していきます。ポリマーの分子運動性はポリマー骨格の改良や添加成分、あるいはその他コンパウンド技術の工夫によって制御が可能です。非晶部分子運動性のコントロールが、耐燃料膨潤特性向上における重要なアプローチの一つとなります。



4.低燃料膨潤材料の特性  

上述のように、結晶化度が高く低燃料膨潤特性に優れた直鎖型ポリマーをベースに用い、コンパウンド技術の改良で非晶部の分子運動性を制御した結果、従来材料と比較して燃料膨潤速度を著しく低下させたジュラファイド 6165A7Sを開発することに成功しました。図5に示すようにジュラファイド 6165A7Sは、従来材であるジュラファイド 6165A61と比較して膨潤速度が半減していることがわかります。

ジュラファイド 6165A7Sの機械物性はジュラファイド 6165A61と比較して遜色ない特性を示しており、流動性の指標である溶融粘度はジュラファイド 6165A61と比較して低くなっています。流動性が改善されているため、薄肉形状あるいは複雑形状に好適な材料となっています(表1)。

図5:燃料膨潤特性
(FuelC 80℃、厚み 0.8mmt試験片、前処理 180℃×2時間 )
 ※Fuel C:トルエン:イソオクタン=1:1

表1:ジュラファイド® 6165A7Sの機械物性
項目
単位
試験方法(ISO)
6165A7S
(HD9050)
6165A61
(HD9100)
 密度
g/cm³
1183
1.98
1.98
 溶融粘度(310℃、1000/sec)
Pa・s
11443
290
350
 引張強さ
MPa
527-1,2
138
145
 引張破壊ひずみ
527-1,2
1.1
1.1
 曲げ強さ
MPa
178
210
215
 曲げ弾性率
MPa
178
16300
18300
 シャルピー衝撃強さ
kJ/m²
179/1eA
4.2
4.5
 荷重たわみ温度(1.8MPa)
75-1
270
270

以上のように、ジュラファイド 6165A7Sは燃料膨潤速度を大幅に低減させただけではなく、流動性と機械物性にも優れた材料です。ジュラファイド 6165A7Sをご使用いただくことで現行部品の性能向上や長期信頼性の向上が望めます。更には、燃料や有機溶剤に接する用途でこれまで樹脂化が困難とされてきた金属部品代替への可能性も広がり、トータルコスト低減や軽量化が期待できます。ポリプラスチックスでは燃料周辺部品に留まらず、ジュラファイド 6165A7Sを様々な用途に提案していきたいと考えています。



5.おわりに

PPSは、固有の優れた特性が市場に認められ着実にその適用分野を広げてきています。リーマンショック以降PPSの販売量は着実に回復しており、今後も年率5~10%程度の安定した成長が期待されています。特に、自動車分野はハイブリット車の開発に伴い電装部品による大きな需要が見込まれていますが、これら重要部品への採用には長期信頼性の獲得がキーポイントになると考えています。本稿でご紹介したジュラファイド 6165A7Sは耐薬品性に極めて優れた樹脂であり、燃料まわりだけでなく、水、熱水、酸、アルカリ、その他薬品類に接する部品品への応用が期待されます。ジュラファイド 6165A7Sを耐薬品・耐燃料用途へご提案させていただくとともに、本材料開発で培った技術は今後の新規材料開発へも広く応用できると考えております。引き続き市場の様々な要求にお応えできる材料の開発を積極的に進めてまいります。




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