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新液晶ポリマー ラペロス(R) GA/HAシリーズの開発と用途展開
はじめに |
液晶ポリマー(LCP)とは、溶融時に液晶性を示す熱可塑性の芳香族ポリエステルを総称します。剛直で折れ曲がりにくい分子構造を持ち、高分子物質に特有な分子の絡み合いが非常に少ないのが特徴です。また、わずかなせん断力により配向するため、射出成形時の流動抵抗が小さく高流動性を示します。さらに溶融時の構造がそのまま固化時に維持されることから、分子の再配列による体積変化が小さいため、高い寸法精度を誇ります。これらの特性により、特に電気・電子部品分野での小型化・薄肉化のトレンドの中でLCPの需要は飛躍的に増大してきました。昨今の電子部品の小型化、複雑化の流れはさらに高まり、LCP材料特性への要求レベルは一段と高まってきています。LCPは他の高分子と異なり名称が成分や結合などを根拠としないことから、分子骨格の自由度が高く、必要特性に応じた様々な種類のLCPが開発されてきました。当社はこれまでのLCPの研究・開発で蓄積した弊社独自の分子設計技術及び重合技術により、飛躍的に流動性を向上させた新規ポリマーGA/HAを開発し、今後、グレード展開を図っていきます。 |
高流動化に対応したポリマーの開発 |
LCPは固化が速く、ハイサイクル成形にも適した材料です。近年の製品形状の薄肉化/複雑化に対して、さらなる高流動性と寸法精度・低反り性が必要となっています。特に高流動性については、これまでも多くの開発、改良を進めてきており、①分子量を低くすること、②低融点LCPのブレンド、③フィラー添加量やサイズの適正化により対応してきました。しかし、これらの対応では技術的な限界が生じつつある状況を鑑みて、当社では長年のLCPの高流動化研究を通して、金型内における結晶化速度が流動性に対して重要な因子であることを明らかにし、図1に示すように、固化速度を遅くすることで流動性を向上させることを実現しました。 |
図1 固化速度の違いによる流動長への影響のイメージ |
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図2(a)に具体的な流動性の違いを、GA130とE130iの0.6mmピッチコネクタの最少充填圧力で示します。評価に使用した金型は図2(b)に示すコネクタ形状のモデル型です。 |
図2(a) ラペロス® E130iとGA130の |
図2(b) 評価に使用した0.6mm ピッチコネクタ評価金型 |
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当社のコネクタ評価型の最少充填圧力は、同水準の溶融粘度のE130iとGA130を比較した場合、GA130の方が1割程度低く、より低圧での充填が可能となっています。E130iとGA130のガラス量、平均繊維長は同等レベルのため、固化速度がこれらの流動性に違いをもたらした結果と言えます。LCPの固化速度制御は過冷却度(示差熱熱分析計(DSC)により一定の昇降温速度で測定した際の融点と結晶化温度との差)によって理解されます。今回のGA/HAポリマーはEiポリマーと比較して、過冷却度が2倍を示し、大幅な固化速度の遅延制御に成功しました。一方で、LCPが従来持つ、高い耐熱性(SMT(Surface Mount Technology)耐熱)、機械特性、耐薬品性などは兼ね備えています。従来のポリマーラインアップにGA/HAポリマーを加えて、さらに市場ニーズ、用途に応じた材料設計が可能となりました(表1)。 |
表1 ポリマーの種類とGF強化材料の特性 |
ポリマー | 特徴 | 融点(℃) | 特徴 | ||
曲げ強度 (MPa) |
曲げ弾性率 (MPa) |
荷重たわみ温度 (℃) |
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A | 高機械強度、構造部材用途 |
280 | 270 | 15,000 | 240 |
B | 高弾性率・高強度 |
280 | 300 | 20,000 | 240 |
C | SMT耐熱・高強度 |
325 | 240 | 14,800 | 255 |
Ei | Pb-Free SMT 耐熱 標準 |
340 | 230 | 15,000 | 275 |
GA | Pb-Free SMT 耐熱 高流動 |
355 | 200 | 15,000 | 280 |
HA | Pb-Free SMT 耐熱 高流動 |
350 | 200 | 15,000 | 280 |
T | 高耐熱(高融点) |
370 | 220 | 14,800 | 300 |
S | 超高耐熱・低発生ガス |
355 | 240 | 16,000 | 340 |
* Pb-free: 鉛フリーはんだ |
ラペロス® LCPのグレード展開 |
ラぺロス® LCPポリマーを用いて、現在までに表2に示す各電子部品に適応可能なラペロスグレードを開発済み/開発中です。LCPは流動方向と流動直角方向の物性差が大きく、この異方性に基づく変形が生じやすい傾向にあるため、製品形状に合わせた材料を準備する必要があると考えています。表3には各グレードの一般物性を示します。 |
表2 各電子部品に対するラペロス® LCP GA/HA推奨グレード |
コネクタ | CPUソケット | I/O、メモリー | FPC / BtoB | DDR / Card socket |
特徴 | 平面 + メッシュ | 対称形状 | 薄肉 | 非対称形状 |
形状 | ||||
必要特性 | 高強度、高流動 |
低反り、高強度 | 低反り、高流動 | 低反り、低異方性 |
推奨 GA / HA グレード |
GA130 | GA481 | HA475 | GA481 |
表3 ラペロス® LCP GA/HAグレードの物性一覧 |
GA130 |
GA140M |
GA481 | HA475 | ||
グレード識別 | >LCP-GF30< | >LCP-GF40< | >LCP-(MD+GF)45< | >LCP-(GF+MD)30< | |
密度 | g/cm3 | 1.61 | 1.70 | 1.77 |
1.64 |
曲げ強度 | MPa | 200 | 155 | 145 | 140 |
曲げ弾性率 | MPa | 15,000 | 13,000 | 12,000 | 12,000 |
曲げひずみ | % | 1.8 | 2.5 | 1.7 | 2.5 |
シャルピー衝撃強さ (ノッチ付) |
kJ/m2 | 20 | 18 | 6 | 6 |
荷重たわみ温度 (1.8MPa) |
℃ | 280 | 250 | 265 | 240 |
荷重たわみ温度 (0.45MPa) |
℃ | 300 | 270 | - | 275 |
特に流動性、反りの観点からは社内評価型を用いて、綿密なグレード設計をしてきました。例えば、ラペロス GA473は図3(a)に示すようなDDR(Double-Data-Rate Synchronous Dynamic Random Access Memory)-DIMM(Dual Inline Memory Module)ソケットモデル型を使用し、従来グレードと比較して、約30%の反り量の改善を実現しています。また、流動性の指針である成形充填圧力も10~20%低減しました。 |
図3(a) 評価に使用したDDRコネクタ成形品
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図3(b) ラペロス® GA473と従来グレード で成形されたDDRコネクタの反り変形量 |
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さらに、LCP材料が使用される電子部品の中で最も軽薄、短小化が進んでいる部品の一つに、図4(a)に示すようなFPC (Flexible Printed Circuits)コネクタがあります。ラペロス S475と比較して、ラペロス HA475の成形充填圧力は、約30%低い圧力で充填することが可能となりました。また反り変形量は図4(b)からラペロス S475とほぼ同等の性能を有しています。 |
図4(a) 評価に使用したFPCコネクタ成形品
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図4(b) ラペロス® HA475と従来グレード で成形されたFPCコネクタの反り変形量 |
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一方で、固化速度の遅延制御はLCPの本来の重要特性であるハイサイクル成形性が失われてしまう可能性があります。図5はラペロス GA130、E130iとジュラファイド® 1130A6のゲートシール時間を示しています。ゲートシール時間とは、射出成型時の保圧時間と成形品重量の関係から、成形品重量が変化しない最短時間と定義されます。この結果から、ゲートシール時間はジュラファイド 1130A6よりも明らかに速く、従来のLCPグレードと大差ないことが確認されています。 |
図5 ラペロス® GA130、E130iとジュラファイド® 1130A6の |
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おわりに |
今回ご紹介したラペロス GA/HAシリーズは“固化速度の制御”と言う、新しいコンセプトに基づいて開発されたポリマーです。冒頭に申し上げたように、LCPの分子骨格の設計自由度は高く、必要特性に応じた様々な種類のLCPが開発できる可能性がある一方で、所望の特性を得るためのポリマー開発には、長年培ってきた分子設計技術のノウハウと膨大な実験量を必要とします。今回の新規GA/HAポリマーをベースとした高流動材料が、益々小型・薄肉化する電気・電子部品分野での必要性が高まることが期待されます。当社では、今後も市場ニーズに合わせたラペロス GA/HAシリーズのグレードの拡充を行ない、常に最適な材料がご提案できるよう研究開発を継続していきます。 |
「ジュラファイド®」、「ラペロス®」は、ポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有している登録商標です。 |